競走馬のオーナーになりたい――。競馬ファンなら、誰もが一度はそんな夢を抱いた事があるのではないでしょうか。しかし、個人で馬主になるには、所得と資産に関する高い要件をクリアする必要があり、一般の競馬ファンにはハードルが高いものとなっています。そこで、一般の競馬ファンが馬主を疑似体験するために生まれたのが「一口馬主」という制度です。一般の競馬ファンでも、クラブ法人が募集する馬の中から、気に入った馬に出資することで、馬主気分を味わうことができます。
募集馬はクラブ法人により40口から1万口の間の小口に分割されて募集されます。例えば、総額2000万円の募集馬の場合、40分の1のクラブなら一口50万円、500分の1なら一口4万円が出資の際に必要となります。出資後は預託代などの維持費(約60万円/月)を口数に応じて負担します。レースに出走した場合は、賞金の8割に加え、出走手当などが支払われます。出資者には、賞金諸手当からクラブ手数料などを引いた金額が、配当として口数に応じて分配されます。
競走馬の馬生に関わることで得られるさまざまな体験が、一口馬主の醍醐味であると言えます。
募集馬は、大半のクラブで、デビューする約1年前の夏から秋にかけての1歳の時期に募集が開始されます。会員はカタログや動画を見て出資馬を選ぶことができます。また、クラブが実施する募集馬見学ツアーに参加して個人馬主のように実馬を見て選ぶこともできます。
出資後は、クラブ公式サイトや会報で定期的にアップされる近況や、牧場見学で愛馬の成長を確認することが出来ます。成長を見守ってきた馬がレースに出走し、優勝した際の喜びや興奮には、馬券では味わうことのできない魅力があります。また、出資馬が優勝した際の口取り式や、クラブ主催のパーティーなど、クラブには様々な会員特典が設けられており、充実したクラブライフを送れることも魅力の1つです。これらのイベントを通して同じ趣味の仲間を作ることもできます。
出資した馬がレースに出走すれば、馬主には賞金諸手当が交付されます。新聞などを見ると、1着から5着までの賞金が掲載されていますが、中央競馬では6着から8着の馬に対しても、出走奨励金として賞金が交付されます。2着から8着に交付される金額の比率は、1着賞金に対してそれぞれ40%、25%、15%、10%、8%、7%、6%となります。GI競走のように、1着賞金1億円のレースなら、8着でも600万円を手にすることができます。賞金に関しては、その金額の8割が馬主に入ります。出走手当は馬主に全額支給され、1走当たり40万円から42万5千円(レースの格に応じて差がある)が交付されます。
出資者への配当は、賞金諸手当の合算から、手数料や消費税、源泉徴収税などが控除されるため、賞金諸手当の約7割が実質的な取得金額となり、口数に応じて取得金額が配当として分配されます。例えば、3冠馬オルフェーヴルの場合、150万円の出資金で、2500万円以上の配当がありました。
出資した馬が輝かしい競走成績を収め、引退後、種牡馬になった場合は獲得した賞金のほかに、種牡馬の売却金額から経費などが控除されたものが分配されます。
馬は生き物であり、驚くほどの成長を見せる馬もいれば、血統の良さなどから期待の大きい馬が意外と伸び悩むケースも当然ありえます。また、怪我により、能力を発揮できなかったり、デビューすらできないケースもあります。1勝することの苦労は、馬に出資することで痛感する場面も多く、厳しい競争に勝ち抜くためには、相手関係や天候などの条件といった巡り合わせも時に必要となります。
さらに、高額な募集馬とリーズナブルなそれでは、出資する側も求めるモノが異なります。高額馬に出資すれば、収支を考えると常に重賞で勝ち負けしなければいけませんが、リーズナブルな馬なら、1勝してくれれば収支が合う可能性もあります。出資をする際は、自分に見合ったスタイルを見つけて検討すると良いでしょう。
クラブが募集馬を決定し、カタログが完成するのは、募集馬がデビューする1年前の夏から秋になります。興味を持った方は、クラブに問い合わせてカタログを送ってもらい、写真や血統、募集価格などをチェックして、お気に入りの馬を見つけましょう。
募集時期はクラブ毎に異なりますが、大半のクラブでは1歳夏ごろに第一次募集があり、人気のあるクラブはこの段階で抽選となります。第一次締め切りが終わり、まだ満口になっていない馬たちは、申込順で出資可能となる場合が多いです。
クラブによって、募集締切を行う時期もバラバラです。1歳12月で終了するところもあれば、トレーニングセンターに入厩した段階で締切るクラブもあります。1人が申し込める頭数は、空き状況があれば何頭でもOKですが、1頭に対して申し込める口数は、過半数に満たない口数(400口募集なら199口まで、500口募集なら249口まで)までと決められています。
まずはクラブに入会するにあたり、入会金が必要となります。入会金は各クラブで異なるものの、およそ1万円から3万円が掛かります。入会すると、公式サイトで会員専用ページが閲覧できたり、会報が届くなどのサービスがあることから、毎月会費が発生します。この費用もクラブによって様々ですが、1080円から3240円となっています。
出資をする際、募集価格を支払うことになりますが、一括払いだけでなく、募集時期によって分割払いも可能です。1億円を超える募集馬もいれば、1000万円以下の馬もおり、募集口数によっても一口当たりの価格が変わるので、自分の予算に見合ったクラブ、募集馬を探し出すことが重要です。
出資後は、預託代などの維持費のほかに、保険料出資金が2歳から年1回発生します。これもクラブによって違いはありますが、募集価格に対して保険料率3%前後が必要となり、さらに2歳時、3歳時、4歳以上で割合も変わります。
まず、どのクラブに入会するかが重要な要素となります。GI競走などビッグレースで活躍するクラブは、やはり人気も高い傾向にあり、そういったクラブでは、自分が欲しい馬がいても、抽選などの理由から出資できない可能性が高くなります。各クラブの公式サイトで、募集状況を確認し、満口になっている頭数が多いクラブでは、思うように好きな馬へ出資する機会も少なくなります。
馬は生き物であるため、高額馬が確実に走るとも限らないのが競馬の難しさであり、楽しさでもあります。いきなり高額募集馬に出資し、結果が出なかった場合のダメージは計り知れません。一口馬主を始める際には、自分の予算に見合う馬を、好きな血統や馬体から選び出すことをお勧めします。
netkeibaの一口馬主向けコラムや新馬サーチ、出資者の方が自らの体験談を書くブログなどもあるので、それらを参考にしながら、どのクラブや馬が自分に合っているか探してみましょう。